「そうそう……丁寧に、汚さないように探し てくださいね」  いざ鍵を探すにあたって、澄美の潔癖ぶり は俺にとって最大の障害となった。  エプロンは白いから汚さないように。  髪は埃が溜まりやすい場所だから、絶対に 自分の皮膚に触れないように。  ともかく、注文が細かいのだ。 「ああっ、そんなにしたら生地にしわが寄る じゃないですか! 手汗でできるシミだって 落とすのが意外と大変なんですよぉ!!」  いらいら、いらいら、いらいらいら。 「ああっ、うざったい!」  耐えかねて、ついに俺は怒鳴った。 「少しぐらい我慢してくれないか? 勝負に 負けたんだから、文句はないはずだろ!」 「それとこれとは、話がべつですっ!」  眉をつり上げ、澄美は怒鳴り返した。  あとはもう、売り言葉に買い言葉である。  激しく、俺たちは言い争った。 「私はあくまで、ご主人様の命令に従ってる だけですっ!」  塔を昇ってくる客人と、鍵を賭けて麻雀で 勝負する……それが彼女の命じられた仕事で あり、やり方は任せると言われたのだ。 「だから私は私のやり方でやってるんです。 それが気に入らないのなら、無理に勝負して いただかなくても結構です!」  そのまま、澄美は部屋を出ようとする。 「ちょっと待てよっ!」  反射的に、俺は彼女の手首をつかんだ。  その途端。 「汚い手で触らないでくださいっ!!」  悲鳴のような声をあげて、澄美は俺の腕を 振り払った。 瞬間、俺の怒りは頂点に達した。 --------びりびりっ! 布地の裂ける音とともに白い糸くずが舞う。 澄美を引き止めようとした俺の手が、その エプロンを力一杯につかんでしまっていた。 こまめに洗濯をしていたためだろう。  弱っていた繊維はその力に耐えきれずに、 いとも簡単に引き裂かれてしまったのだ。  彼女の潔癖さが、仇になったわけである。 まくれぬようエプロンを止めていたホック へと引っ張られる形でスカートが、さらには ブラウスまでもが破れていく。 それはまるで冗談のような光景だった。  簡素だが、可愛らしい形のブラジャー。 太股をぴっちり包むストッキングには伝線 ひとつなく、真新しいパンティの下をくぐる ガーターベルトできちっと留められていた。  自分のしでかしたとんでもない行為に俺は 狼狽した。とにかく謝らなければと、おそる おそる澄美の様子をうかがう。  平手の一撃ぐらいは、覚悟していた。  しかし、澄美の反応は俺の予想とはあまり にも違ったものだったのである。 「ああっ、糸くずが散らかって! これじゃ またお掃除しなくちゃ……」  下着姿にされたことへの羞恥よりも、彼女 は床に散った布の破片を気にしていたのだ。  そんな彼女の行動は、どこからどう見ても 常軌を逸しているとしか思えなかった。